ブラームス「ドイツ・レクイエム」のご紹介
 

一般にレクイエムとは“死者のためのミサ曲”で、元来、ラテン語で歌われる、カトリックのものです。しかし、ブラームスはプロテスタントの家に生まれ、熱心に教会に通うというようなこともありませんでした。35歳で完成させるまで、この曲を10年以上あたためてきたブラームスはその間に、自分の作品を認めてくれた恩人シューマンと母親の死を経験しています。ドイツ・レクイエムの歌詞はドイツ語の聖書のあちこちから、ブラームスが選んだもので、“キリスト”という言葉は一度も登場せず、むしろ“Freude(喜び)”などという言葉があるなど、ミサのための音楽とは言いにくい面があります。宗教の儀式の一つとして死者の安息を祈ることよりも、残された人への慰めに重きを置いています。愛する人を失う悲しみの中にあっても、日々を生きていかねばならない人間には、特別なものではなく身近な言葉で語りかけたい、という切実な思いが表れているようです。

1833年生まれのブラームス(写真は若き日のブラームス)は時代としてはロマン派に属しますが、バッハやベートーヴェンといった先人の影響を強く受けています。尊敬していたベートーヴェンの後に交響曲を書くということの難しさに苦しみ、43歳でやっと『交響曲第1番』を書き上げます。ベートーヴェンの死後50年近く経ってからのことです。思いは結晶となり、残した交響曲はたった4曲ながら、ブラームスはベートーヴェンのあとの最大の交響曲作曲家として知られることになります。しかし、後年こういった大曲を作るようになる前、若いころは歌曲やピアノ曲を数多く残し、合唱指揮者としても活動していました。『ブラームスの子守歌』はおそらく、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。ドイツ・レクイエムの美しい旋律や豊かな音の重なりも、音楽家としてのこんな歩みと無関係ではないように感じられます。

同じレクイエムでも、例えば私たちが第54回演奏会で取り上げた『戦争レクイエム』(ブリテン)とは異なり、全体的に明るくあたたかい響きが印象的です。この数年、第55回演奏会の『レクイエム』(カール・ジェンキンス)や、4人の現代作曲家を取り上げた第57回演奏会の曲目などにおいて、響き豊かな声づくりに重点を置き、練習をしてきました。音楽に対する深い理解、強い思いと共に、合唱そのものの力も要求されるこの大曲に、60周年という節目の今回、グリーン・エコーは初めて挑戦します。
指揮は、第54回『戦争レクイエム』以来となる広上淳一先生。ソプラノ中嶋彰子さん、バリトン大西宇宙さん、名古屋フィルハーモニー交響楽団の皆さんとの共演も非常に楽しみです。練習の成果を皆様にお届けしたいと考えています。多くのお客様のご来場をお待ち申し上げています。